新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.009 ライカM6[10557]
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。いろいろなライカをお薦めしてもらっていますが、飽きるという感覚が一切ないのがライカのすごいところ。今日はどんなライカにお目にかかれるのか楽しみです。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を生かした実用的な観点とヴィンテージサロン的な趣味性が両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さんがお見立てしてくれたのは、ライカM6でした。
懐かしい記憶を蘇らせてくれるライカM6
「どうぞお手に取ってみてください」とカウンター越しに差し出されたライカM6。このカメラ、持っていたことがありました。でも諸般の事情により手放しました。それはこのカメラが嫌いになったからではなく、好きだったけれど経済的な理由でやむなくという感じでした。思い返せば当時勤めていた会社のクリエイティブ部の部長から1990年代の前半に譲り受けたのです。いや、今は自分のカメラ遍歴を吐露する時間じゃないですね。
そもそも、ここで僕が手にしているライカM6は21世紀の製品で2023年製のもの。要するに新品なのです。ボディに装着してあるレンズだって往年の大口径広角レンズ、球面仕様のズミルックス35mm F1.4ですけれどこれも復刻生産されたもの。だから両方ともピッカピカで誰もフィルムを通していないカメラ独特のヴァイブレーションを放っております。
復刻されたフィルムM型ライカの実用機
さて、ここでライカM6というカメラの出自を振り返ってみましょう。オリジナルのライカM6が登場したのは1984年。もうこの年号だけでエモいです。だってアップルコンピュータ社がIBMに対抗して初代のMacを発売した年ですから。それでカメラの世界はどんなことが起きていたかといえば、その翌年に本格的なオートフォーカス機能を搭載したミノルタアルファ7000が大ヒット商品となる直前ですね。ニコンからはフィルム旗艦機F3をチタン外装化したF3/Tが出ています。
要するに35ミリフィルムを使うカメラの主流は完全に一眼レフがメインストリームだった時代で、自動露出は当たり前という世の中に投入されたのがフルマニュアル機械式のライカM6でした。その最大の特長は、ライカM5ではアナログメーターだった内蔵露出計を、LEDの点灯で示すようになったことでした。
どちらが復刻かわからないほどの出来栄え
あらためて復刻されたライカM6を見てみましょう。この写真のブラックとクローム、どちらか一方が復刻新品で、もう一方が驚くほどキレイな状態で保存されていたオリジナルのライカM6です。どちらもレンズマウント上方にある赤いバッジに筆記体で記された屋号が、現行のライカでは“Leica”であることに対して1984年当時の表記のまま“Leitz”なのでオリジナルと復刻の区別がつきません。
降参したくなる気持ちはわかりますが、もう少し辛抱強く左右のボディの違いを見出そうとすると、ありました! ストラップのリングが当たりそうな位置に、トッププレート側面を保護することを目的としたプラスチック製のバンパーが右のカメラにはありますが左のカメラには見当たりません。正解は右のクロームのボディが1980年代製のオリジナルで、左のブラックのボディが新製品の復刻版。これは完璧なリバースエンジニアリングであると表彰状を差し上げたいほどの出来栄えです。
社名の刻印からライカの歴史を知る
はい、正解がわかったところでトッププレートの刻印を見てみましょう。オリジナルのクロームボディにはERNST LEITZ WETZLAR GMBHとあり、右の新品復刻版の表記はERNST LEITZ WATZLAR GERMANYです。オリジナルのM6にあるGMBHとはドイツ語で有限会社を示す略号で、戦前のバルナック型ライカにも記されているお馴染みのものですね。現在ライカカメラ社はAG(アクチェン・ゲゼルシャフト=株式会社)になっているのでGMBHと刻印するのも変なので、代わりにGERMANYとしてあるようです。
この1ラインだけ社名がゴシック系フォントで刻印されているライカM6は初期生産のモデルに限り、社屋がSOLMSに移転した段階で刻印は無くなることから、古いライカM6の中でも“WETZLAR刻印”と呼ばれています。そのモデルを復刻しているのも心憎い演出ですね。
新しいライカM6の使い心地は?
ライカM6はフルマニュアルの機械式フィルムカメラではありますが、露出計を内蔵していることもあり実用機として古くから写真を撮る目的のライカとして非常に人気がありました。復刻されたライカM6もその実用性は受け継がれています。現行のライカMシステムのフィルム機はライカMPとライカM-Aですが、いずれもライカM2やM3の時代をトリビュートした外装部品が採用されています。すなわちフィルム巻き上げレバーは無垢の金属製で、フィルム巻き戻しはノブ式です。
これに対してライカM6は、ライカM4以降のモデルで採用されたプラスチックの指当てがついたフィルム巻き上げレバーとクランク式の巻き戻しなので指あたりがやわらかく、巻き戻しも迅速にストレスなく行えます。露出計はライカMPをベースにした3点式のLEDなので、オリジナルの2点式よりも楽に操作できるのもポイントです。
復刻版ライカM6に似合うレンズは?
では、復刻版のライカM6に合わせるといい感じになると思うレンズは何でしょう?とお薦めレンズを尋ねると、装着してくれたのはシルバーリムの広角レンズ、ズミルックス35mm F1.4の復刻モデルでした。ブラックボディと組み合わせるとクローム仕上げのレンズが映えます。「ライカM6が登場した1980年代の半ばであれば、明るい35mmレンズといえばこのモデルでした。外観はライカM6が登場するより前の時代のもので復刻されていますが、光学的な内容としては同じです」
そうなんです。球面ズミルックス35mm F1.4は古い設計なので何という写りだ!という強烈な個性を放つ描写で好き嫌いがはっきり分かれるレンズですが、僕は大好物です。「それに、この明るさでこのコンパクトさというのも魅力です」と力説する中明昌弘さんの意見に賛成1票です。ちなみにこのレンズ、同梱されている専用フードの仕上げにも惚れ惚れします。
まとめ
現行のフィルム機として2022年に市場投入された復刻版のライカM6。新品の露出計付きフィルムM型ライカは、MPとM6という選択肢が用意されたことになります。どちらにしようと悩んでいるお客さんが来たらどうしますか?という問いかけに、中明昌弘さんは少し困った様子でした。
「難しいですねぇ。正直、見た目で選んでくださいという感じです。とにかくカット数を多く撮るのでしたらフィルムを少しでも早く巻き戻せるというのと、ショット数が多いほど巻き上げレバーの指あたりの部分も痛く感じるかもしれません。それが少し緩和されるのでそういう方にはM6の方がお薦めです。あとはブラックといってもM6の方が表面の強度があるので傷などを気にせずにハードな使い方ができるという差があると思います」
やはり1980年代でも2024年の現在でも、ライカM6は写真を撮るための道具として愛されていく存在ということなのだと思います。
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはM7 ブラッククローム
執筆者プロフィール
ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。
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どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。
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カメラのキタムラポータルサイト『ShaSha』より転載
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