新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.007 ライカMPクラシックセット
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。フィルムのヴィンテージ機から最新のデジタル機まで、M型ライカ各種を拝見してきましたが今日はどんなライカにお目にかかれるのか楽しみです。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの水谷さん。初対面で出てきた真っ赤なライカMデジタル(連載vol.001参照)には度肝を抜かれましたが、今回ご用意していただいたのはどんなモデルなのか気になります。おそらく水谷さんの得意ジャンルであるモダン・クラシック的なアプローチのセレクトなのかなと推測しつつ、カメラの登場を待ちます。
これは一見するとライカMPですけれど
このカメラはライカMPに見えるんですけれど‥。と心配しながら水谷さんの顔色を窺っていると、ゆっくりと説明を始めてくれました。これはライカMPクラシックセットと称されるモデルで、アジア圏でライカの代理店をしていた香港シュミットが2004年に企画してライカカメラ社に作ってもらったもの。なぜ2004年に発売されたのかといえば1954年にライカM3が登場してから50年の節目に当たる年だからだそうです。
ライカMPのようで電池蓋がない
このカメラ、最近のライカ製品にある赤いロゴもなくてヴィンテージの雰囲気ですけれど、21世紀のプロダクツだなと直感できるのはレンズ着脱マウントを固定しているビスの頭にプラスねじが使われているからなんですね。ライカM5までの時代では、プラスではなくマイナスねじが使われていました。マウント12時位置のねじは昔のライカでは蜜蝋のような素材で封印されて筆記体のLマークが記されていますが、それも省略されています。
ライカMPにあって本機にはないものとして筆頭に挙げられるのが電池蓋です。ライカMPクラシックは2003年に発売されたライカMPを母体にしながら、あえて露出計を抜き去ることでクラシックテイストを拡張していこうという目論みで作られたモデル。シャッター先幕には露出計の受光素子に反射光を届ける白丸のペイントも見当たりません。
こだわりのブラックカウンター
クラシックテイストへのこだわりポイントとしては、フィルムカウンターが銀色の円盤に黒文字という通常のパターンではなく、黒地に白の数字が刻まれているところ。これはライカ初の直営店であるライカ銀座店のオープニングを記念して2006年に製作されたライカM3Jにも採用された特別仕様のパーツです。
「ブラックカウンターは古いライカのことを知っていくと一番憧れるディテールだと思います。というのも、ライカM3のブラックペイントのモデルにごく少数カウンターがブラックのモデルが存在するからです」と水谷さんが解説してくれました。香港シュミットにも古いライカに造詣の深い人がいてカウンターの色を指定したのかもしれませんね。ちなみにライカMPクラシックは、500セットの限定発売品だったそうです。
AG(株式会社)だけどゾルムスの時代
トッププレートの刻印は、LEICA CAMERA AGとあり、改行してSOLMS GERMANYと地名および生産国が記されています。ライカが株式会社になり、お馴染みのウエッツラー(ヴェッツラー)ではなくゾルムスに工場があった時代の製品であると分かります。普通のカメラファンならメーカーの本社の所在地がどこかとか、会社の登記がどうなっているかなんて気にしないけれど、ライカのファンはそんなことにも注意を向けたりするものです。
ホットシューの上部にはMPハイフンに続き500までの限定生産数に準じたナンバーが刻印されているのが写真左側にある通常のライカMPと異なる部分です。フィルム巻き戻しノブはライカM3最後期型にあやかった赤点2つの仕様で、フィルムが間違いなくローディングされていれば、巻き上げレバーを操作すると赤点がクルクルと回るので安心です。
後ろ姿が物語るカメラの特殊性
ライカMPクラシックの後ろ姿を見てみると、一際目立つのが背蓋のパーツに貼り付けられた大きな銀色の円盤です。通常のライカMPでは露出計にフィルム感度を伝えるためのディスクが配備されている場所なのですが本機では露出計を排除したことによりその部品は不要なので丸い銀色の円盤で塞いでいることが独特の雰囲気を醸し出しています。
ライカM5の時代までは、こんな感じのディスクが背蓋にありました。でもそれには中心部にタングステン・デイライト・モノクロのアイコンで3分割された小径の回転盤があって、装填しているフィルムの種類と感度を矢印で示すことで忘備録の機能を果たしていたのですが、本機では中心部が空白になっていてISO(昔のASA=アメリカ標準規格)とDIN(ドイツ工業規格)のフィルム感度表記を換算するスケールだけが刻印されています。
特別限定モデル専用のズミクロン
ライカMPクラシックにおいて特筆すべきは、セットで販売されたレンズのスタイリングに尽きると思います。「初代のズミクロン50mmを彷彿させる引き締まったデザインで、このレンズだけでも欲しい人がいらっしゃると思います。フォーカスリングのローレットの切り方や、フィートのスケールの赤文字表記などに特別感があります」と水谷さんが力説するのも納得できます。球面のズミクロンM f2 50mmの当時の通常モデルと同じ光学系だけれどクラシックテイストで格好いい。初代のズミクロンにはあった無限遠ストッパーは装備していないのも実用的で好印象です。
このレンズの魅力を熱く語る水谷さんですが、個人的にはブラックペイントのボディーにシルバーのレンズを装着するコーディネートもお好きだそうで、そのあたりは次回以降にじっくりお話を聞かせてもらおうと思っています。
まとめ
20世紀の終わりから2000年代の初頭は、ライカから数多くの限定モデルが頻発していた時代でした。香港シュミットからはこのライカMPクラシックが登場する前の1993年にトッププレートに東洋の干支のひとつである鶏を刻んだ酉年限定モデルや、1995年のドラゴン(この年の干支は龍でなく亥ですが)モデルなどが出されていたと記憶しています。
そのような限定モデルに特別な価値を見出すかどうかは個人の趣味の問題ですが、ライカMPクラシックとセット販売されたブラックペイントのズミクロンは魅力的ですね。水谷さんによると元ネタとなった初代の黒いペイントのズミクロン50mmが中古市場に出てくると440万円以上はするそうで、そんなこともあってこのセットは330万円なのね。と納得してしまうのが黒いライカや黒いライカM用レンズの恐ろしさなのだと思います。
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:水谷浩之
1985年生まれ。憧れのカメラはM3J、M3ブラックペイント。
執筆者プロフィール
ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。
オンラインショップでライカの中古在庫を確認
新宿 北村写真機店では中古カメラ・レンズの一部をネットで公開しています。ぜひこちらもご覧ください。
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どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。
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