新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.001 ライカM(Typ262)Red アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH. Red
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。今回から始まる新企画『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』の舞台は、新宿
北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンター。高級レストランで出される一皿のごとく、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触って、味わう様子をレポートします。
コンシェルジュお薦め第1号は?
新宿 北村写真機店の6階を訪れたことのある方にはお分かりだと思いますが、広々としたスペースにライカを主軸としたレアな品々が並んでいて、その中には文献でしか見たことのないようなモデルも。さて、連載初回にどんなライカをお薦めとして出していただけるのかと思ったら、いきなり登場したのは真っ赤なライカです。これはライカMデジタルのスペシャルモデル、ライカM(Typ262)レッド・アノダイズド・フィニッシュというもの。
真っ赤なライカの生まれた理由
ご覧のとおり、赤いです。たまたま着ていたアイルランド製の赤いコットンのシャツと比較していただくと、メタリック調なのが分かると思います。このボディが発売されたのは2017年で製造台数はたったの100台。ベースとなっているのはライカM11から遡って2世代前にあたるライカM(Typ240)系の最終機種のライカM(Typ262)というモデル。ベースモデルのライカM(Typ262)の登場が2015年なので、時代考証にも合致しますね。
ヴィンテージサロンのコンシェルジュである水谷さんによると、このスペシャルモデルはライカの研究書を出していることでも知られる、ライカコレクターのラーズ・ネトビル氏の依頼によって作られたものだそうです。どうやって頼んだのかは妄想するしかありませんが、ライカカメラ社とネトビル氏は、まぁ、すごく仲がいいということなのだと思います。
本気で道楽を極めるカメラ
赤いカメラというのは、あまり記憶にないですね。あったとしてもコニカトマトとか、ピッカリコニカC35EFJ、オリンパスXA2、ペンタックスPC35オートロンなど1970年代から80年代の35mm版コンパクト機に採用されていた例がほとんどで、それらのカメラにはカジュアルに写真を楽しんでください。というメッセージが込められていたと思います。
それに対してライカM(Typ262)レッド・アノダイズド・フィニッシュは何だか気合いが違うというか、遊ぶにしても本気で道楽を極めるというか、一種の凄みを感じます。いったいどのような人が、どのようなシチュエーションでこのカメラを携え、そして写真を撮っているのが相応しいのか? すごく目立つカメラなのですが、赤いカメラに赤いライカのバッジなので、赤丸のライカロゴは全然目立たない。その一点は控えめな印象です。
赤いアポ・ズミクロン
アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.のレッド・アノダイズド・フィニッシュ。こちらも100本の限定生産品です。このレンズが登場したのは2016年のこと。赤いボディよりも先にレンズが発売されていたんですね。この赤いアポ・ズミクロンが登場した経緯は、ライカカメラ社の社主であるアンドレアス・カウフマン博士が個人的に試作させ、ライカの新製品レセプション会場に持ち込んで関係者に見せてしまったことが発端でした。
ガンダーラもその場に居合わせたのですが、「うわー、カッコいい!それ売っているんですか?」「いや、これは私のもので1本しかないので」「これ欲しい!限定で作ってください!」という羨望と欲望の渦巻くやりとりを経て、限定生産をすることになったという次第です。このレンズ、普通は赤い着脱指標が特別な黒いパーツになっているのもポイントです。
まだまだ実用十分のデジタルM
背面から見たライカM(Typ262)レッド・アノダイズド・フィニッシュ。ライカM(Typ240)系なので、その後のモデルであるライカM10やライカM11を見慣れていると液晶モニター横にボタンがずらっと並んでいるのが印象的です(ライカM10やライカM11では3つのボタンしかない)。ちなみにベースとなったライカM(Typ262)は、ライカM(Typ240)から動画撮影機能とライブビュー機能を省いて、レンジファインダーカメラとしてのM型ライカのアイデンティティーだけを残すことをコンセプトとして掲げて登場したモデル。
写真撮影に対してストイックな姿勢を示した仕様で、撮像素子やJPGの仕上がりに関してはライカM(Typ240)と同等。ライカM(Typ240)系は、後継機種のライカM10やライカM11と比較すると淡麗な描写が得られることが特徴であると言われています。
フードを引き出した部分も赤い
アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.のレッド・アノダイズド・フィニッシュは、組み込み式のレンズフードを引き出しても、その内側も赤いんです。特別モデルで色を変えるとき、通常の黒いパーツが残っていたりすると興醒めですが、その点も抜かりない仕上がり。フードを引き出すと目に入る赤い部分の面積が増えて、さらに迫力が増して見えます。
余談ですが、アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.の組み込み式フードって、すこし捻るような動作をしながら引き出す仕立てなのですが、その動きのスムーズさにはうっとりさせられるものがあります。そのフードの外まわりに、しっとり吸い付くように被せることができるキャップの着脱の感触にも痺れます。同梱されているかぶせ式の金属キャップも赤い仕上げ。これを無くしてしまったら一生の不覚になるので用心して使いたいですね。
隅から隅まで赤いアルマイト仕上げ
天面には筆記体のロゴなどはなく、シンプルな仕立て。ライカM(Typ240)ではシャッターボタンの横に動画ボタンがありましたが、それも省略されています。レンズの距離指標はメートルが白で目立っているのでメートルを基準に行動している日本やドイツやフランスのユーザーにはありがたい仕様。フィートは赤文字なのですこし見づらいかもしれません。
ところで、アノダイズド・フィニッシュって何なの?と疑問を持たれた方に説明しますと、アルミの表面硬度を上げるべく施されるアルマイト処理の総称です。通常のアルマイト処理を行なったあと酸化被膜の微細な穴に染料を吸着させて着色します。カメラでこの処理をしたパーツといえば、戦後に生産されたエクサクタ一眼レフのフィルムスプールのつまむ部分などがありますが、カメラやレンズ全体ではあまり例がないのではないかと思います。
まとめ
ライカカメラ社の社主が粋な気まぐれで製作した赤いアポ・ズミクロンを発端として100本だけ限定発売され、それに似合う赤いボディをライカを熱愛するコレクターがリクエストした。アルミを素材としているレンズなら着色できるけれど、通常のライカMデジタルのトップカバーは真鍮。でも大丈夫!ライカM(Typ262)は機能を削るだけでなくトップカバーをアルミ製にすることで軽量化したモデルなのでアノダイズ処理で赤くできるぞ!
そんな偶然が重なることで、真っ赤なレンズとボディのアウトフィットが完成したんですね。こういうドラマチックな展開で限定モデルのカメラが出てくるのもライカならではだと思います。ちなみにM(Typ262)レッド・アノダイズド・フィニッシュは底蓋もアルミ製。だから、普通のライカと比べると、底蓋が驚くほど軽いこともお伝えしておきます。
ネットで中古の在庫を確認
新宿 北村写真機店では中古カメラ・レンズの一部をネットで公開しています。ぜひこちらもご覧ください。
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:水谷浩之
1985年生まれ。憧れのカメラはM3J、M3ブラックペイント。
執筆者プロフィール
ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。
新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン
新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。
カメラのキタムラポータルサイト『ShaSha』より転載
撮影・ShaSha編集部 文・ガンダーラ井上