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特集・コラム

『ライカで見つける10人の肖像展』インタビュー【第1回】コハラタケル「僕がライカで一番気に入っているのは、メニュー画面の扱いやすさ」

2024/08/24

はじめに

2024年6月21日(金)から新宿 北村写真機店地下1階「ベースメントギャラリー」で始まった『ライカで見つける10人の肖像展』。同店6階ライカブティックのオープンを記念して開催されているこの企画展は、日本を代表するライカ使いの中でもポートレートに定評のある10人がオリジナリティを競い合っています。(2024年7月31日で終了)

そこで、ベースメントギャラリーを舞台に競演する写真家たちの「フォトライフ」を紐解く連載記事がスタートします。その1回目はSNSでも高い人気を誇るコハラタケルさんが登場。撮影に使用したカメラ・レンズをはじめ、出展いただいた作品の誕生秘話などについてお聞きしました。

写真家のコハラタケルさんを撮影した写真

広辞苑で「肖像」を調べることから始めた

——今回の展示作品について聞かせてください。いつ、どのように撮られた作品でしょうか。

コハラさん

テーマが「ポートレート」で、他に出展される写真家の方々のお名前も聞いていたため、プレッシャーを感じました。最初は意気込み、見た目が派手でインパクトがある写真を出そうかなとも考えたんです。でも、もうちょっと純粋にポートレートに向き合いたいと思って切り換えました。

コハラタケルさんが広辞苑を見ている写真

僕は言葉の意味から入るタイプなので、まず、ポートレート=肖像だなと思ったんです。そこで広辞苑を開きました。広辞苑のいいところは、関連語も載っているところです。すると「肖像画」とも書いてあります。肖像画を見ると、だいたいバストアップぐらいが多いなと気付いて、画角を考えました。実際の撮影では猫の全体像を写真に入れるためにバストアップよりも引いた写真になっています。

そして次は、誰を撮るかです。祖母や農家の知り合いも考えたのですが、なんとなく撮る前から完成形が想像できてしまいました。「もう少し想像ができないゴールにしたい」と考え“過去に撮りたかったけど撮れなかった人”にしたんです。

ポートレートは“感謝をいかに伝えられるか”

ポートレートは写ってくれる人がいないと成立しません。当たり前のことではありますが、改めて写ってくれる人がいることの感謝を自分のなかで再認識したいという気持ちがありました。今回「飼い猫を抱っこしている写真を撮りたいです」と僕のほうからお願いしたのには理由があります。

スマートフォンがある以上、写真は皆さんたくさん撮っています。飼い猫と一緒にいる写真も撮ってはいると思うのですが、意外と白壁背景でポーズも決めて撮影することはそこまで多くないのではないかと思うんです。人も動物も、いつ体調を崩すかはわかりません。お互いがまだ元気なときに今回のような写真を撮ることで「(写真を)残しておいてよかった」と思える日が来るのではないかと思います。

コハラタケルさんの作品。女性が猫を抱きかかえている写真

以前ライカギャラリーで写真展を開いたときに、友人から「被写体を画面の真ん中に置かないのは、心の不安を表したいから?」と言われたことがあり、印象に残っていました。ポートレートは自分以外の人を撮りつつも、どこか自分自身を投影しているところもあるのではないかと思っています。“迷い”とか“不安”の気持ち、その不完全さも表現する意味で、少し右寄りになるようフレーミングしています。

「365日、見ていられる写真が最高」

コハラタケルさんが自身の作品を眺めている写真

——日頃、写真のセレクトはどのように進めますか?

コハラさん

僕は写真をデジタルで始めたので、モニター上で作業するのが普通だと思っていましたが、最近はモニターだけだと感情移入しすぎて、作品を俯瞰できない気がしています。でも展示や写真集には、自分の写真を他人の写真のように見る心構えが大事で、一度プリントしないと俯瞰しづらいなと思っていました。

コハラタケルさんが作品をノートパソコンに写している写真

ここ1〜2年の展示では、最低でもA4サイズで、なるべく大きめに写真をプリントします。それを壁に張って並べるんです。可能な限り早く張りたいです。

というのも僕は、365日見ていられる写真が最高だと考えているからです。相反するようですけど、パッと見た印象は強いけど、ずっと見ても飽きない写真がベストだと思います。だから可能な限り早くから壁に張って、いつも目に入るようにします。するとそのうちに「これ、クドいな」と気付いてセレクトから外してみたり、最初は良くないと思った写真もあえて入れてみたりします。

写真はセレクトが全てだと思います。僕も本当は他の人に見て選んでほしいのですが、一人で完結させたいという思いもあり、このスタイルになっています。幼少期の頃からひとり遊びが好きでした。自分の過去を振り返って、閉じこもっていた過去の自分がこれを見たら納得するか、という視点で考えたとき、やはり一人で俯瞰する力を付けようという結論に至るんです。

室内撮りにオススメしたいライカM(Typ240)

コハラタケルさんが使用しているライカM(Tyop240)を正面から撮影した写真

——撮影に使った機材を教えてください

コハラさん

このシルバーのライカM-P(Typ240)は、今回の撮影のために買った!と言えるぐらいのタイミングでやってきました。インドで働いている友人が、このカメラを手放すと発信していたんです。ちょうど僕が手元のM型ライカを修理に出していたこともあり気になって、とりあえず使わせてもらおうと思いました。展示作品は、このカメラを手にして1週間後ぐらいに撮ったものです。

最初はなかなか感覚が掴めなくて難しいなと思ったんですが、白壁の背景で撮った時の、白壁の白の出方と肌色のバランスが良くて気に入りました。カメラやレンズを買うときは一度、白壁背景で人物を撮影し、肌色と白のバランスを見ることが多いです。また、以前から肌色に関してはシアン寄りの肌色の方が好きで、室内で撮るのが多い人には相当オススメな機種かもしれません。

レンズはアポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.を使っています。ライカに辿り着くまでに様々な機材を迷いながら入れ替えてきた経験から、ライカを買うときには価格に妥協なく選びたいと考えていました。とはいえ買うレンズは1本に絞りたかったので、いろいろと使用感について調べてみて「これが1本あれば大丈夫」という意見が多かったのを参考に決めました。

今回はプリントで展示するため、“プリントであればRAW現像時の手数は少ないほうがいい”という経験に基づいて、明るさとコントラストぐらいの調整にとどめています。

ライカを選んだ理由の一つはデザイン性

——ライカを使い始めたきっかけは何でしたか?

コハラさん

僕が新しい機材を買うときは、いつも仕事が基準です。それまではAPS-Cセンサーのカメラを使っていて、今でこそ現像ソフトが充実したので画質差もカバーできると思いますが、当時はフルサイズセンサーの広いダイナミックレンジに頼りたいと考えていました。

それで日本メーカー各社のフルサイズ機をチェックして、気に入るものも見つけたのですが、SNSで写真のキャリアをスタートしたての自分として、機材での差別化を意識したというのが理由の一つです。

もう一つの理由はデザイン性です。自分がそのカメラを365日持ち歩きたいと思うかどうかを考えたとき、先に気に入ったカメラは少し違うかもなと思ったんです。そこでライカにしようと考えましたが、いきなりMやSLではレンズへの投資額が相当に必要だったので、レンズ一体型のライカQ2を選びました。

——実際にライカを使って気に入ったポイントはどこでしたか?

コハラさん

よく言われる「写りの良さ」というのは、今はRAW現像ソフトも優秀ですし、AI技術も入ってきますから、カメラの評価基準として今後重みが変わっていくかもしれないなと思っています。もちろん、ある一定以上のレベルに達しているのは大前提ですし、その上で目が肥えている人なら「特にライカのこのレンズは〜」などと、深く選べるのかもしれませんが。

コハラタケルさんがカメラに手を置いている写真

僕がライカで一番気に入っている部分は、メニュー画面の扱いやすさです。それが全てと言えるぐらい、圧倒的に使いやすいです。「そんな些細なこと?」と思われるかもしれませんけど、大事ですよね。写真を撮ることについて僕が伝える核にあるのは、とにかく出歩いて写真を撮ってほしい。これが大前提です。でもそれをやるときに、メニュー画面が複雑だと億劫になる人がいると思うんです。

ライカSL3が出たときに、情報を表示するアイコンのデザインにこだわっているという話があって、「そう来たか!」と思ったんです。これこそライカの強みだし、実際に他社にない秀でた要素ですね。

プロフィール

■写真家:コハラタケル

1984年生まれ、長崎県出身。建築業を経てフリーのライターとして経験を積み、その後フォトグラファーに転身。SNSを含むweb媒体での広告写真を中心に活動する傍ら、山本文緒 『自転しながら公転する』島本理生 『あなたの愛人の名前は』文庫版など書籍カバーにも写真が採用されている。2023年にはライカギャラリー東京・京都にて写真展「撮縁」を開催。

■執筆者:鈴木誠

ライター。カメラ専門ニュースサイトの編集記者として14年間勤務し独立。会社員時代より老舗カメラ雑誌やライフスタイル誌に寄稿する。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」

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