新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす |Vol.016 ライカMPエルメスエディション
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。さて、今日はどんなライカが登場するのか、いつもながら楽しみです。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの水谷さん。ライカMP系列で21世紀の初頭から作られている限定モデルの数々などモダン・クラシック的なアプローチのレアなライカを得意ジャンルとする水谷さんですが、今回もあまりお目にかかれないような機体が出てきそうな気がします。
かなり高級そうな箱に入ったライカ
「こちらが今回ご紹介するライカのセットになります」と差しだされたのは上品でマットな質感の白い貼り箱に銀色の箔押しでLeicaの丸いロゴが記されたものでした。サイズ感としては手土産のお菓子が入っている箱というレベルではなく、お中元とかお歳暮で頂戴する何か高級なものが入っている箱の感じに近いです(個人の印象です)。
最近のライカの箱といえば黒や銀をベースにして光沢仕上げされた丈夫な紙箱というのが通常の製品に用いられている定石ですが、これは雰囲気が異なることからレアなスペシャルモデルの箱であると推測されます。ということで、警察の鑑識係みたいな白手袋を装着してから中身を拝見することにします。
エルメスとコラボしたライカMP
「ライカMPエルメスエディションでございます。これは眼福ですよね」と開陳された白い化粧箱の内側は、裏打ちが100%シルク生地という時点でありがたさが感じられるパッケージです。箱の中にはボディ1台とレンズ1本に専用フード1個、ストラップ1本に加えてベージュの布で装丁された独・英・仏3ヶ国語で表記された取扱説明書、レンズの持ち運び用とレンズを装着したままカメラを携行できる便利なライトブラウンのベロアポーチ2種が入っています。「2003年に500台が限定で販売されました。ご存知の通りライカMPをベースにして、革製品のハイブランドとして名高いエルメスさんとコラボレーションしたモデルになっております」とのこと。
ボディ外装にエルメス製のバレニア革を採用
ビニール袋から取り出されたライカMPエルメスエディションのボディは、あまり使用された感じがしないものでした。通常モデルと異なり目を惹かれるのはボディの貼り革の色ですね。なんとも繊細で落ち着きのある色調で、合成皮革では再現するのが難しい高級なニュアンスを醸し出しています。
「注目すべき点としては、ボディの革にエルメスのヴォー・バレニアと呼ばれるレザーを使用している点です。バレニアレザーはヌメ感のあるカーフ(仔牛)の革です。ちょっと弾力があって柔らかい革ですよね。取り扱いが荒いと傷つきやすい素材でもあります」
特別なボディ専用に用意されたレンズ
ライカMPエルメスエディションセットには、ボディと同色のシルバークロームのズミクロンM f2/35mm ASPH.が同梱されています。通常モデルとは異なり、アルミニウムではなく真鍮素材の鏡筒なので手にしてみると重い! このレンズ専用に削り出された金属製のフードも真鍮製なのでズッシリした手応えを感じます。
「このあとに、アンスラサイト仕上げのボディに合わせたアンスラサイト仕上げのフードなど様々な仕様が出てきますが、当時レンズと同色で真鍮素材のフードを作ったというのは結構こだわったポイントなのかと思います。ちなみに、このモデルだけ指掛けのパーツもシルバーになっています」確かに通常モデルだと黒いパーツのフォーカシングレバーもレンズと同色のシルバーなので一体感がありますね。
裏蓋のベゼル部分もシルバー系で塗装
フィルム装填する時にパカッと持ち上げられる裏蓋の部分にもバレニア革が貼ってあるだけでなく、外枠の金属部分が通常品ではブラック仕上げのところをシルバーで塗装してあるのも本モデルの特徴です。「裏蓋のISO感度ダイヤルもシルバーであればよかったのにと思います」という水谷さんの意見に賛成1票。ボディ正面の電池蓋の外周はシルバー仕上げにしてあるのに、ここだけ黒いままなのが惜しい感じがします。
ちなみに現行品のライカMPシルバーボディのISO感度ダイヤルもブラック仕上げなのですが、貼り革がブラックで裏蓋の外周もブラックだから変な感じはしません。
同梱のストラップもエルメス謹製
このセットが通常のライカMPと大きく異なる点として同梱のストラップの存在があります。エルメス社のアトリエで手作りされ、HERMES PARISと銀色の箔押しされたストラップ。これを使うべきか大切に保管しておくかはオーナーの意思に委ねられた問題ですね。
古くからのライカ蒐集家の人には知られていますが、バルナックライカの時代にエルメスはライカ向けにストラップを提供していたことがあるそうです。その当時のものを目利きのコレクターは見抜いて入手していたりしますが、そこにはHERMESの刻印はないので探し出すのに苦労するそうです。エルメスではオーナーのイニシアル入りでバルナックライカ用の速写ケースを制作していた経緯があり、そちらには蓋の金具の周囲に小さくブランドが記してあるので鑑定するのは容易だそうです。
まとめ
エルメスのケリーバックにも用いられているバレニア革に包まれたライカMPエルメスエディション。私の知人でこのエディションを普段使いのライカにしている女性がいますけれど、ブランド品という感じではなく写真を撮る道具として街にも山にも持ち歩かれていて心底いい感じだなぁと思っています。そのエピソードに水谷さんも賛同してくれました。
「ライカMPは機械式なので長く使っていただけます。エルメスの高級な革であるので使うのに躊躇されるかもしれませんが、大切にしてたまに眺める程度とは言わず、バレニア革に陽を当てて褐色のエイジングを楽しんでいただける方にぜひ買っていただきたいです」
普通のライカじゃないライカを普通に使う。そういう粋な人になってみたいものですね。
ご紹介のカメラとレンズ
ライカMP エルメスエディションセット 価格500万円
案内人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:水谷浩之
1985年生まれ。憧れのカメラはM3J、M3ブラックペイント。
執筆者プロフィール
ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。
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