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特集・コラム

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.019 ライカM9-Pエルメスエディション

2024/07/20
ライカM9-Pエルメスエディションを斜めから撮影した写真

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。毎回どんなライカが出てくるのか予測不能な展開を基本としてお届けしていますが、今回もどんなカメラが出てくるのか楽しみです。

コンシェルジュのお薦めは?

今日のお薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの水谷さん。この前はライカMPベースでエルメスとコラボした限定モデルというモダンクラシックのレアなライカを見せていただきましたが、その流れを鑑みるともうひとつエルメスが出てきそうな予感がします。

エルメスとコラボしたライカM9-Pの特別モデル

ライカM9-Pエルメスエディションを手に持った写真

「こちらがライカM9-Pエルメスエディションになります」と手渡されたライカは、明らかに普通のライカじゃありませんでした。あらかじめ白手袋をしていたから良かったですけれど、無闇に素手で触ってはいけない雰囲気の品物です。

「2012年にM9-Pエルメスエディションとして50mmのズミルックスとセットになって248万円で300セット販売されました。もうひとつ3本のレンズとエルメス製のバッグが付いたセリエ リミテ ジャン・ルイ・デュマが525万円で100セット販売されました。その名のとおり2010年にご逝去されましたエルメスの前CEOとの友好を記念したモデルになっております。ちなみにレンズはズミクロンの28mmとノクティルックス50mmとアポズミクロン90mmでした。ということでズミルックス50mmはこちらにしか付いていません」

貼り革は当然エルメス製を採用

M9-Pエルメスエディションの貼り革の写真

Vol.16でご紹介しましたライカMPエルメスエディションと同様に、このモデルにもエルメス謹製の革が使われていますが、色調が少し明るいですね。「エルメスの革が使われていることが大前提のモデルです。今でもセリエ リミテ ジャン・ルイ・デュマのバッグを製造する工程の様子をYouTubeで見ることができますのでぜひご覧になってください。このモデルでは、ヴォースウィフトと呼ばれる革です。MPエルメスエディションで採用されたヴォーバレニアと同じくカーフ(仔牛)の革ですが、細かく型押しがしてあります。発色の良い素材なのでカラーのアイテムに使われているものになっています。ベジタブルタンニンなめしのレザーですので、時間の経過とともに褐色に変化していきます」

カーデザイナーにより変身した外装

M9-Pエルメスエディションを天面から撮影した写真

この特別モデルは、見慣れたライカと雰囲気が違うのには理由がありました。デザインをイタリア出身のカーデザイナー、ワルテル・デ・シルヴァに依頼して作られていたんですね。彼はアルファロメオGTVやスパイダーなどを手掛けたのちにアウディグループに移籍してA6やQ7ハイブリッドなどを手掛けています。ワルテル・デ・シルヴァに流れるラテンの血が質実剛健一辺倒だったドイツ車のデザインに肉感的な要素を付加していったのと同様に、定規とコンパスがあると描けるようなシンプルな構成を信条とするライカのデザインに色香を加えたような逸品です。手で触れると実感できるのですが、エルメスの革が貼ってあるボディシェルよりも、トッププレートのカバー部分がほんのわずか膨らんでいてセクシーな手触りなのです。

カメラの中身はライカM9-Pそのもの

ライカM9-Pエルメスエディションの背面モニター

ボディ背面から観察してみれば、操作ボタンの配置などからこのカメラの母体がライカM9をベースにしているのがわかります。液晶モニターのカバーには高級腕時計の風防などに用いられる人造サファイアが採用されており、M9のアップグレードバージョンであるM9-Pと同様の仕様です。

M9-Pにはフルサイズのコダック製CCDが採用されていて独特の発色が現在でも人気です。この時代のCCDカバーガラスのコーティングには不具合が発生するものがありましたが、本品はその対策済みとのことなので安心して撮影も楽しめそうです。とはいえ将来的にメンテナンスを考慮すれば、旧車マニアみたいに何台か部品取りのライカM9をストックしておくと良いかもしれません。

特別にデザインされたズミルックス50mm

ライカM9-Pエルメスエディションとレンズを天面から撮影

この角度から眺めると、トッププレートが真っ平でなく微妙な曲面を持っているのが感じられるかと思います。このあたりがカーデザイナーの仕事だなぁと思わせるポイントですね。カーデザインの世界では直線だけで設計されたものは軍用車両くらいのもので、乗用車のほとんどが何かしらのアールがある。ということでトッププレートを運転席から見えるフロント部分のボンネットに見立てたようなデザインになっています。ちなみにシャッターダイヤルもふっくらと天面が膨らんでいます。

ボディの意匠に合わせて、同梱のズミルックス50mmも特別仕様の外装です。絞りやピント調整の溝はピッチが全部違うけれど均整のとれた比率で刻まれていて見た目が良いことに加えて操作もしやすい。「焦点距離とフィートのスケールの数字の色がエルメスのシンボルカラーに近いオレンジ色になっているのがすごく調和していて、これは唯一ですね。これ以外のレンズは付けづらいかもしれません(笑)」

もちろんストラップもエルメス製

ライカM9-Pエルメスエディションのストラップ

一番衝撃的だったのは、これです。ライカMPエルメスエディションと同様に、このモデルにもエルメス謹製のストラップが同梱されています。特筆すべきは、そのしなやかな手触り。今まで数限りないほどの本数の革ストラップを使ってきましたが、このようにしっとりしたストラップには触れたことがないです。その質感に水谷さんも驚きを隠せない様子。「Tシャツ1枚で素肌に触れても気持ちいいでしょうね。まさにセクシーなストラップです」

しかも、このストラップはすごくいい匂いがします。このうっとりするような匂いや触感のしなやかさは数値化できないものであり、ウェブページやショウケース越しで受け止める視覚情報では伝えられないもの。こういう部分に上質なメッセージが込められているのがハイブランドのハイブランドたる所以なのだと思います。

まとめ

ライカM9-Pエルメスエディションとレンズを正面から撮影

ドイツを代表するカメラメーカーであるライカが、フランスのハイブランドであるエルメスとコラボして、外装をイタリア人の有名カーデザイナーに託した結果生み出されたライカM9-Pエルメスエディション。わずか1mmに満たないわずかな膨らみをもつボディラインや、微妙な色使いの貼り革、その佇まいに調和する意匠のレンズの組み合わせは唯一無二のもの。

「ボディ単体よりも、このレンズがついた時にフランスとイタリアとドイツそれぞれの良いところを組み合わせるとこういうものが出来上がるのかと得心できます。すごく格好いいですね。デザインに惚れるというカメラです」と語る水谷さん。2012年に本製品がリリースされて以来、M型ライカのエルメスエディションは出ていないので、次が出るのを待つくらいなら、これを買ってみてはいかがでしょう?とのことです。

ご紹介のカメラとレンズ

ライカM9-Pエルメスエディション+Summilux-M f1.4/50mm ASPH.

案内人

ヴィンテージサロン コンシェルジュ:水谷浩之

1985年生まれ。憧れのカメラはM3J、M3ブラックペイント。

執筆者プロフィール

ガンダーラ井上プロフィール写真

ガンダーラ井上

ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。

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