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特集・コラム

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.023 ライカM3 ブラックペイント

2024/09/28

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという有り難い企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。さて、今日はどんなアイテムを見せてもらえるでしょうか?

ライカフェローのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店でライカフェローの肩書を持つ丸山さん。ヴィンテージライカに関する豊富な知見を持っている丸山さんが前回見せてくれたのはズミルックス50mm F1.4の1stモデルブラックペイント3種盛りでした。直近の数回は黒いレンズが続いているので、そろそろボディも見てみたい気分。そんな思いを察してくれたのか、カウンター越しに黒いカメラが出てきました。

ライカズミクロン5cm F21stを並べた写真

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.020 ズミルックス50mm f1.4 ブラックペイント

2024/08/03
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ブラックペイントのライカM3が登場

ライカM3ブラックペイントを手に持っている写真

「こちらが、M3のブラックペイントです」と丁寧な所作で差し出されたボディ。黒く塗られたライカを語るからには、やはりライカM3は欠かせませんよね。そろそろM3のことを教えてほしいなぁと思っていた絶妙なタイミングでの登場となりました。

「いままでライカM3はクローム仕上げの段付きをお見せしただけで、ブラックペイントに関してはM2とM4のみのご紹介とさせていただいていました。それは、やはりM3のブラックペイントは特別かなと密かに思っていまして‥」と、満を持して投入してくるあたり、さすがライカフェローの丸山さんです。大好きだから、あえて出してくるのを我慢していた。その気持ち、よく分かります。

先人の使用歴が真鍮の地肌の景色に出る

ライカM3ブラックペイントのアイレットを撮影した写真

ブラックペイントのカメラの魅力は、どのように使われてきたかが見えてくる経年変化にあると思います。この機体、かなりいい感じにペイントが剥がれています。「こちらは1097***の番号帯で、1964年の製造です。M3ブラックの中では中期から後期に差し掛かった頃の150台のうちの1台です。先人の方々が使ってきたなという塗装の剥がれ具合や、あとはストラップ部分のハゲ具合に味があります」

確かに、この機体はかなりの頻度で撮影に使用された印象です。「トッププレートの銘柄部分はそれほど擦れていないので前のユーザーはライカメーターを装着しない方だったのかなと思います。シャッターダイヤルのエッジは擦れていてアイレットはかなり穴が削れているので、よく吊って持ち歩いて沢山の写真を撮っていたんだろうなぁというところが想像できて楽しいですね」

ライカM3ブラックペイントは約3000台

ライカM3ブラックペイントの軍幹部を撮影した写真

「M3のブラックペイントは一般的にはM2よりも生産数が多いと言われていて、その数は3000台ほどです。公式な番号表では1044001-1046000という1962年に製造されたロットにブラックペイントがなぜか2000台もあることになっています」ふむふむ、確かに新宿 北村写真機店さんで購入させていただいたライカポケットブック第9版(レッドドットフォトブック刊)に掲載された番号表を確認してみると、該当するロットの2000台はM3 Schw L.(M3 黒 ラッカー)と記されていますねぇ。

「でも、僕だけかもしれませんがその番号帯のブラックペイントを見たことがありませんし、別の資料ではその番号帯は特にブラックペイントが製造されたという記載がありません」ということは、3000台と言われているブラックペイントのM3の実生産数は、数字としては上がっているけれど見たことのない番号帯の2000台を差し引くと1000台程度しかない?

実際の生産台数はもっと少ないかもしれない

ライカM3ブラックペイントの背面を撮影した写真

「どうなのでしょう。確かに当店でもブラックペイントのM3、M2、M4の取り扱い実績がありますが、やはりM3の入荷が少ないですね」ライカM2のブラックペイントは1800台程度の生産量なので、それより出会う確率が低いM3の方が生産数が少ないのではないかという仮説が立てられますね!

「そこはまだ研究途中で、詳しい方にこんなことを言ったら笑われるかもしれません。もしかしたら1044001-のロットの中にブラックペイントが点在・混在しているのかもしれませんが、よくは分かりません。私の経験では、実機を見たことがないのです」その番号帯のブラックペイントのライカM3が出現したら超ド珍品か、もしかしたら後からこっそり黒く塗ったディープフェイクのどちらかであると言えそうです。

ブラックペイントのライカM3に似合うレンズ

ライカM3ブラックペイントと眼鏡付きズミクロン35mmを並べて撮影した写真

シリアスなブラックペイント探求の道はどこまでも続きそうですが、ちょっと台数の謎から離れてスタイリングに話題を移しましょう。この黒いM3に似合うレンズは何でしょう?というカジュアルな質問に、丸山さんはストレートの豪速球で答えてくれました。

「メガネ付きズミクロン35mm 8枚玉1963年もののブラックペイントです。このレンズをつけて格好いいというか、ピッタリとくる醍醐味はM3でしか味わえません。もちろんM2やM4でも使えますが、似合うのはM3ですし、使うべきカメラもM3です。メガネ部分やピントのストッパー部分のペイントの落ち方、マウント部分の指の当たる部分の落ち方も丁寧に使い続けられることで落ちていて何とも言えないですね」製造年代の近さに加え、使われてペイントの落ちた景色まで含めたスタイリングに脱帽です。

メガネでM3のファインダー枠を最適化

眼鏡付きズミクロン35mmを装着したM3のファインダー内を撮影した写真

メガネの付いたミクロン35mmをライカM3に装着するとどうなるのか? 50mm用のファインダーフレームの倍率が変わって、35mmの画角が見えるんです。メガネ付きではないズミクロン35を装着した場合にはM3のアクセサリーシューに外付けのビューファインダーを装着する必要がありますが、メガネ付きならその手間は不要です。上の写真は、メガネ付きズミクロン35mmを装着したライカM3のファインダー内の様子です。角丸の50mm撮影枠の画角が広角になって見えています。

「メガネ付きズミクロンを装着すると独特の外観になって、それを好まれるお客様もいらっしゃいます。それだけでなく50mmの枠が広がって、ライカM3でもシンプルに35mmレンズが使えるこの嬉しさをぜひ味わっていただきたいです」

まとめ

ライカM3ブラックペイントと眼鏡付きズミクロン35mmを正面から撮影した写真

この機体は、前述の番号帯が空白であるとすればブラックのM3としては5番目のロットに当たるそうです。「ライカとしても作り慣れてきて、成熟してすごく使いやすいワンストロークでキレのあるM3になっていると思います」ふむふむ。製造開始から10年のロングセラーとして確固たる地位を確立している時代のM3ということですね。

「最初の1台にこの辺りの機体を手に入れると、もっと前のモデルが欲しくなるお客様が多いですね。憧れのライカM3ブラックペイントを手に入れても、それで終わりではなく始まりに過ぎません。もっと番号の若いのが欲しくなります。ブラックペイントのM3には、特徴の違うセカンドロット、ファーストロットがあります。今回はこのM3でしたが次回以降で遡りたいと思います」と意味ありげな微笑みを浮かべる丸山さんの次回お薦めライカに期待しつつ、今回の取材はこれでお開きとさせていただきます。

ご紹介のレンズ

ライカM3 ブラックペイント 価格 510万8,400円

ズミクロン35mm F2 8枚玉 メガネ付き ブラックペイント 価格    550万円

※価格は取材時点での税込価格

案内人

ヴィンテージサロン コンシェルジュ:ライカフェロー 丸山豊
1973年生まれ。愛用のカメラはM4 ブラックペイント

執筆者プロフィール

ガンダーラ井上プロフィール写真

ガンダーラ井上

ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。

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